ネット君臨:第1部・失われていくもの/3
◇上司・同僚、顔も見ず
操作していた職場のパソコンに突然、エラー画面が現れた。「違反です。あなたのIPアドレスを記録します」
東京に本社を置く大手IT(情報技術)企業の調査研究担当社員(41)が英文サイトで遺伝子組み換えに関する資料を探していた時だ。その中に「SEX(性別)」という文字があった。社内のネットワーク監視システムが「業務中に性的描写を見た」と判断した。
同じような経験は一度や二度ではない。社の管理部門に閲覧許可の申請書をいちいち出さなくてはならない。「仕事の能率がひどく落ちた。ITを万能と考えている経営者は裸の王様ですよ」
同じIT企業の「ITFOR」(東京都)はパソコンの操作記録を社員本人と上司が見ることができる。無駄な仕事をしない「抑止効果」が高まった。私用に使われやすい携帯電話をオフィスに持ち込むのも禁止。ICカードで開けるロッカーに入れ、1日に取り出した回数まで分かる。
仕事の管理、効率化、情報漏れ対策……。同社が3年前から導入した監視ソフトを開発する「MOTEX」(大阪府)の高木哲男社長(58)は「市場は将来も確実に伸びる」と予想する。米国にならい、企業の財務情報の信頼性を保つため08年から社内管理の徹底を法律で義務づける「内部統制」(日本版SOX法)が追い風になる。
企業の社員監視とネットワーク化が進むとどうなるのか。
150メートル先まで仕切り一つない広いオフィス。足音とキーボードの音だけが響く。大手企業の電子機器設計を担当する30代前半の男性社員は、静まり返った仕事場で言い知れぬ孤独感に襲われる。
目の前の相手にメールを打つのが当たり前になった。直属の上司は別のビルにいる。連絡もメールだ。自分が書いた報告書を読んでうなずいているか、首をかしげているのか。その顔が見えない。「昔のように仕事を直接教えてもらえなくなった。結局、自分で考えるしかない」
ペーパーレスになった職場で、紙の古い資料を見つけた。紙は組合のビラくらいしか目にしない。「稟議(りんぎ)書も人の手で回していたんだ」。新鮮な驚きがあった。今は「人と人の間に機械がはさまっている」と感じる。それでもネットを使わない仕事は想像できない。
同僚とのつきあいは確実に減った。上司には「会社で金を出すから飲み会でも開けよ」と指示されている。
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